第42回 平成20年(2008年)4月10日掲載


バン

 バンという鳥が、アシの根元で、水浴びをしています。ここはさいたま市南区、住宅街の中にある白幡沼です。私の子供のころは、白幡地区の田んぼをうるおす水源池として静かな所でした。今は、北と東の間近まで学校がせまり、南と西にはマンションや住宅が並んでいます。西岸に沿って、遊歩道も整備されました。
 通学の生徒たち、竿を振る釣り人、散歩の人たちなどが絶えない中、時々ケッ、またはキュルッと、唐突な感じで大きく響くのは、バンの声です。クイナの仲間で全体は黒っぽく、額の赤い色が目立ちます。
 アシの根元でひとしきり水をはねあげていたバンは、するすると泳いで、アシの中に入って行きました。その行き先から、またケッという声が聞こえてきました。どうやら奥の方で、つがいの相手が待っていたようです。
 もしかしたら、もう巣ができているのかも知れません。抱卵から大体3週間ほどで孵化するバンの雛は、まるで、水に浮く黒い毛糸玉です。住宅街の中の小さな沼、たくさんの人々が行き交う遊歩道のすぐ横で、この春も、ふわふわの黒い毛糸玉たちが生まれようとしています。

 



読売連載入口に戻る
前に戻る
次に進む