第96回 平成25年(2013年)1月24日掲載




ヒクイナ


 昨年末、県東部のある川岸で、ヒクイナ=写真=に出会った。赤い虹彩と足、顔、胸、腹の暗赤色が目立つ。全長23 a。クイナ科の鳥だ。枯れたアシの陰から時々姿をあらわし、水辺を歩いていた。
 実は、古くから鳥を見ている者にとって、ヒクイナは夏の鳥というイメージが強い。例えば1966年発行『野鳥の事典』では「夏鳥」、82 年発行の図鑑では「夏鳥。越冬例もある」とされていた。そのころに基礎的な知識を吸収した頭には、「ヒクイナ=夏鳥」の印象が強く染み込んでいる。ところが最近は、2011年発行の図鑑で「東北地方より南で留鳥または漂鳥」、12 年発行日本鳥学会『日本鳥類目録改訂第7版』では「北海道と本州北部で夏鳥、本州中南部で留鳥」、つまり「関東では留鳥=冬もいる」となった。今回のヒクイナのように、冬の観察例が増えたからだ。
 ヒクイナの習性が変わったのかも知れないが、野鳥に関心をもつ人たちが増えたことにより、かつて見落とされていた部分が見えてきたのかも知れない。今後も、情報が積み重なることで、わからなかった部分がわかる様になる可能性がある。既成概念の心地よい崩壊を期待したい。


 



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