第106回 平成25年(2013年)11月28日掲載




ハシビロガモ


 11 月中旬。多くの人々が行き交う遊歩道沿いの沼で、顔に向う傷、目つきの悪いこわもてのカモが2羽、並んで泳いでいた=写真=。と言っても実は全然こわくないハシビロガモのオス。向う傷に見えるのは、生え変わり途中の羽の色。
 カモのオスたちは、繁殖期を過ぎると、メスに似た地味な色に換羽する。秋、シベリアなどの繁殖地から日本に渡って来る時は、そんな状態になっていることが多く、これを「エクリプス」と言う。ギリシャ語を語源とした「力を失う」「現れなくなる」などを意味する英語とか。エクリプスのオスたちは、渡って来た後、繁殖羽に衣替えして冬を越し、春、伴侶と共に北の国にまた旅立つ。
 ところがハシビロガモには、エクリプスの後に、一部だけ換羽して中間的な羽色が続く時期がある。これを「サブエクリプス」という。この写真は、サブエクリプスのオスたち。きれいな繁殖羽になるのは、他のカモ類より遅い。 
 突然カモたちが騒ぐ。オオタカがコサギを襲う。身をかわされ、狩りに失敗したオオタカはそのまま飛び去る。一瞬の出来事に人々は気づかない。すぐそこにいる生きものたちは皆、日々命がけだ。ハシビロガモの目つきがきつくなるのも、無理ないことかな。

 



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