第112回 平成26年(2014年)6月5日掲載




タマシギ


 田植えが終わったばかりの水田に、タマシギのペア=写真=がいた。奥、少し大きく首から上の赤みが美しいのがメス。手前、少し小さく全体的に褐色で地味な方がオス。
 通常鳥の世界では、メスに選んでもらうためにオスが派手な色彩を身にまとい、抱卵や子育てのために外敵から身を隠したいメスは、地味な衣装になる。ところがタマシギでは逆。なぜなら、オスとメスの役割が逆転しているから。
 卵を産むのはさすがにメスだが、産んだ卵をオスに預けて、他のオスの所に行ってしまう。残されたオスは、自分が作った巣で卵を抱き、温める。やがて孵化すると、ヒナたちを連れ歩き面倒を見て、子育てをする。タマシギは一妻多夫の珍しい鳥なのだ。その話をすると、女性たちはうれしそうな顔になり、男性たちは複雑な表情になる。
 繁殖期の夕方から夜にかけて、闇の底を通し遠くまでコォーコォーと声を届けるのもメス。さえずりの役割もオスからメスに移っている。大きな目が印象的だ。
 私が自宅近くでけなげな父と子らを見たのは、40 年ほど前に犬の散歩をしていた時のこと。当時水田が広がっていた場所には今、大きなマンションが建っている。もちろんここではもう、あの声を聞くことも、あの目に出会うこともない。

 




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