第138回 平成29年(2017年)1月21日掲載




カシラダカ


  名前からタカの仲間を連想するかもしれないが、タカではない。漢字で書くと「頭高」。「頭が高い」? 今度はやたらと威張っている鳥かなと想像してしまうが、そうでもない。
 頭部の羽が普段から少し盛り上がっていて、驚くとそれを高く立てるのでこの名がついた。おとなしいホオジロ科の鳥。
 10月中頃に飛来し、翌年5月中頃まで滞在する冬鳥。平地から山地の明るい林縁部や草地で、雑草類の種子を好んでついばみ、群れでいることが多い。
 冬の間はホオジロに似た地味な羽色で、チッ、チッと鳴き交わすだけだが、4月末から5月初めころの渡り間近になると、オスの顔の縞模様は黒い夏羽になり、ヒバリの歌声を細くしたような声で、複雑なさえずりの練習を始める。時には大きな群れが木々の梢などでさえずり続けることがある。
 もう何十年前のことになるだろうか、秩父地方のある小さな谷で、そんな場面に出会ったことがある。ひと際暖かい春の日差しのもと、林の中の細い道をたどっていた。数羽の鳴き声が聞こえ始め、立ち止まって耳をすますと、次々と広がり、やがて谷全体がカシラダカの歌に埋め尽くされた。冬の間の静かな声とはまったく違う、圧倒的な歌い合いだった。年月の経過とともに、多少誇張が進んだかもしれないが、私の大切な記憶のひとつである。

 


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