第38回 平成19年(2007年)11月1日掲載


オオタカ


 乾いた水田が広がる農道を自転車で走っていて、少し大きい鳥の姿が目に入りました。ブレーキをかけることなく、そのまま走り続け、物陰に入ったところでそっと止めました。
 自転車を降りてカメラを持ち、静かに戻ると、やはりオオタカでした。今年か昨年に生まれた若鳥です。時々周囲に鋭い視線を走らせながら、夢中で獲物のドバトを食べています。私はゆっくりした動作で体を低くして道路に座り込み、カメラを構えました。
 ここで問題。難読姓の一例、「小鳥遊」と書いて何と読むかご存知ですか。小鳥が安心して遊んでいられるのは、近くにタカがいない時だから「タカナシ」と読むそうです。 
 オオタカの狩りの方法は、鳥たちの群れがいる水面や地上の近くを飛び抜け、あわてて逃げ飛ぶ鳥たちの中から、動作の鈍いものを捕えます。ところが、見ていると、多くの場合は空振りで飛び去ります。狩りに成功する確率は、決して高くありません。一度空振りに終わると、また鳥たちが集まり「小鳥遊」状態になるまで、かなりの時間と忍耐力が必要でしょう。 
 運良くドバトを得たオオタカは、食べ続けています。遠く、模型飛行機を飛ばしている人たちがいます。犬と散歩中のご夫婦がいます。土手の上を、部活が終わった中学生たちが、にぎやかに自転車で通り過ぎました。野性息づくこの一角以外は、普通の田んぼの風景です。

 撮影を続けてしばらく時間がたち、注意の持続がふと途切れた次の瞬間、オオタカは消えていました。思わず見直しても、ドバトの羽根が残っているだけです。集中を続ける私の忍耐力は、オオタカに到底及ばないようです。

 


読売連載入口に戻る
前に戻る
次に進む